主婦美術研究

母親になったアーティストが、志し半ばで果てないために…

夫婦劇場

日曜日の早朝、家出をした。

 

家出は、高校生ぶりだろうか。あの時は、父親に腹を立て、本屋で「さくら」という小説の単行本を買って、ファミレスで朝まで読んだんだっけか。

幼稚園の時に、500円玉を握りしめて家出したのが、初めてだったと思う。夕方まで近所の公園で過ごし、夜ご飯と称して、一人で買ったことがなかった、自動販売機でファンタグレープを買ってドキドキしながら飲んだことを、今でも鮮明覚えている。

 

今回の家出もいつまでも覚えていたい家出になった。

 

結婚して、子供ができて、主婦という立場になってから初めての家出。今の家族から飛び出したのは、初めて。そうせずにはいられなかった、朝6時。

出産予定日まで1週間強。入院準備と月曜の子供たちの支度を終え、誰かが起きてくる前にそっと家を出た。途中で何度も涙が出そうになる。一駅多めにトボトボ歩いて、コンビニでお金を下ろして、地下鉄に乗った。ついたのは、岩盤浴があるスーパー銭湯。朝6時台なのに、まあまあお客さんが来ている。親友に朝っぱらから電話して、パニックな気持ちを聞いてもらう。涙が止まらないのに、お客さんはワンサカと増えていく。これからどうなるのだろう。静かな岩盤浴の部屋で、シクシク泣く。暖かくするための蒸気がジュワワーと出ると、うぇんうぇん泣く。

漫画喫茶のような岩盤浴の休憩室で、漫画を読んで、何でもないような場面で涙が出る。

信頼している人々に電話をしまくり、少しずつ心が癒されていく。

 

でも、今日は絶対うちには帰らない。

 

昼過ぎに、旦那から2回着信。出る気もないが、私は話中だった。15時過ぎにも、もう一回。私はまた、話中だった。あぁこんな時のもちょっと電話代が気になる主婦心。でも、こういう時にこそ電話という道具で人と話すのが大事。心を壊す前に。旦那からは、その後は一切電話がなかった。

 

食欲はないし、全く寝ていないのに、眠くもない。

おでんとお握りを大きな掘りごたつの席で一人、ほお張り、出産前だから気にして食べないようにしていたソフトクリームを、自分を甘やかし食べてしまう。

今日の宿を予約し、全ての岩盤浴を体験し、ちびまる子ちゃんサザエさんラグビーの試合をみて、22時前にやっとお風呂へ。カラスの私が、珍しくゆっくり浸かれた。体が尋常な状態ではなかったのだろうか。

 

お風呂から出ると、友だちから不在着信が着ていた。かけ直すと、私が予約した宿の前にいるという。わお。わお。わお。

急いで、宿へ。

美味しいチャイを入れてくれて、夜中の2時まで話を聞いてくれた。

生きていける。自分の話を聞いてくれる人がいるだけで、どんなに心が救われるか。

一人目出産して2年間、そんな事に気づかず、一人で抱え込んで病んでいった自分に教えてあげたい。

 

明日が怖い。というか既に今日だけど。旦那と話し合おうと思ってる。家では無理だけど、外のカフェとかでも絶対泣いてしまうから、なるべく薄暗くて、賑わってない場所を考える。

そして、何から切り出そうか、考えても考えても、わからない。その時の自分に任せるしかない。

私は怒っているのか、悲しんでいるのか。。。何を伝えるのが、自分でもわからない、この混乱した気持ちに近いものを伝える事ができるのか。

「気持ちってなかなか伝わらないものね」

卒業制作の作品を思い出す。https://vimeo.com/123224260

 

そして、朝になり、カフェに呼び出す。録音機を持ってきて、という私。

昨晩は友だちに笑っちゃうかもって言ってたのに、旦那が目の前に現れたら泣いている。

そして、何分間もの沈黙。沈黙を破らない私。いつもならあり得ない。そしたら、旦那からの謝罪。

そして、私は告白。「タピのことが好きだから、悲しかった」と。

そんな事を言った自分にびっくりしながら、その後は細かい事実確認。

タピが嘘をついていないのなら、私の妄想が自分を自分で大きく苦しめていたことになる。でももしタピが必死に嘘をついて、家族がこわれないようにしているのなら、それはそれが真実なのかな、とも思った。

 

そして、話し合いが落ち着いてきたら、なんていうのだろう。話が合うというのか、家の外で会うと、話が楽しい。私はあんなに泣いたのに、タピはあんなに困った顔してたのに、なんかニヤッとしちゃう、どーでも良い会話が自然に始まってしまう。そして、彼が風邪になっていることに気がつく。というか、家に帰ると子供らも2人とも風邪の始まりだ。なんてこったパンナコッタ。

そして家が綺麗にしてあった、すごくホッとする。帰り道を歩く速度もいつもと違って、すごく私のことを気遣ってくれているのが、ヒシヒシ伝わってくる。連れて帰られる感じ。口では言わないが、黙って子供らの用件だけ、レシートの裏に走り書きしていなくなった妻を、心配していてくれたのだろう。風邪ひいてるし。

 

出産間近にどうなるかと思ったけど、なんとか元の鞘に戻って本当によかった。

まあ、元の鞘自体はどんどん変化しているのだろうけど。

泊まった宿の壁にも、今日届いた絵本にも同じフレーズがあった。

 

Life is full of surprises.

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